【原発開放隅角緑内障】
原発開放隅角緑内障は緑内障の代表的な病型であり、高眼圧(22mmHg以上)・緑内障性視野変化・正常開放隅角が特徴です。両眼性で、眼圧上昇の原因となる全身異常や眼局所の異常が認められないものを原発開放隅角緑内障と診断します。高眼圧は房水(眼球内の水分の一種)の流出障害が原因と考えられています。40歳以上に多く、時に20~30歳代にも認められます。40歳以上の日本人における有病率は0.32%とされています。徐々に発病し、慢性の経過をとりますが、かなり進行するまで自覚症状がないことも多いため、検診による早期発見と早期の治療が重要です。治療としてはまず薬物(主に点眼薬)による眼圧降下を図り、効果が不十分な場合には眼圧を下げる手術を行います。
【高眼圧症】
高眼圧のみが認められ、視神経や視野に全く異常がないものを呼びます。厳密には緑内障ではありませんが、特に眼圧が25mmHgを越える場合には10~30%(報告により差があります)の症例が将来緑内障になるといわれていますので、定期的な検査は必要です。ただし、どの時点で治療を始めるかについては一般的なコンセンサスはなく、個々の眼科医が自分の方針に従っているのが現状です。
【正常眼圧緑内障】
正常眼圧緑内障は眼圧が常に正常なことを除けば原発開放隅角緑内障とほぼ同様の障害を来す疾患です。40歳以上の日本人における有病率は3.60%とされ、日本人の緑内障の病型の中では最も頻度の高いものといえます(30人に1人)。原発開放隅角緑内障と同様に検診による早期発見が重要ですが、眼圧が正常であることから原発開放隅角緑内障よりも見逃されやすく、注意深い眼底検査が必要です。眼圧が正常でも安心できないというわけです。治療としては正常眼圧緑内障同様、薬物や手術による眼圧降下を考えますが、視神経血流改善のための薬物治療を行う場合もあります。
【原発閉塞隅角緑内障】
急激な眼痛・頭痛・視力低下の発作をもって発症する急性型と緩徐な眼圧上昇を示す慢性型があります。50歳以上の女性に多く、遠視眼に多いのが特徴です。原因は専ら解剖学的なもので、生まれついた眼の“ツクリ”の問題です。隅角、つまり角膜周辺部の裏側と虹彩周辺部のなす角が狭い(狭隅角眼)と発作を起こし易いのです。
実際には、虹彩よりも後方(毛様体)で分泌された房水が隅角で排出されるまでの過程で必ず通らなければならない瞳孔と水晶体の間が狭いために房水の流れが悪くなること(これを瞳孔ブロックと呼びます)が根本的な原因です。
眼科専門医が見れば発作を起こしやすいかどうかは一目瞭然です。特に発作を起こしやすい状態の狭隅角眼の頻度は一般には0.6%位、加齢とともにやや上昇して60歳以上では1%前後といわれています(ただし発作を起こすのはこの中のごく一部です)。
2003年4月に発表された研究結果では、40歳以上の有病率が全体で1.12%、男性0.62%、女性1.57%、40歳代で0.13%、70歳以上では3.36%と年齢が上がるにつれて上昇という結果でした。急性の発作の場合、眼科医が診ればすぐにわかりますが、頭痛や悪心・嘔吐などを伴うことも多く、眼が見づらいのに気づかずに脳外科など他の診療科に受診することもあります。初期の治療が遅れると重大な視力障害を残すこともあります(一晩で失明することもありうる)ので注意が必要です。
発作の治療は薬物療法で眼圧を下げた上で手術的治療を行います。手術は最近ではレーザー手術が主流ですが、眼の状態によっては観血的手術を行うこともあります。
通常は他眼も発作を起こしやすい眼なので、治療が一段落したら、他眼の予防手術(レーザー)を考慮します。最近は予防的レーザーの副作用も考慮しながら総合的に必要性を判断することが推奨されています。
慢性型の場合にはまずレーザーなどで隅角を広げる手術を行い、効果が不十分な場合には薬物や手術治療を選択します。
ここで、片目に発作を起こして緊急にレーザー治療を行い、後日反対目の予防的レーザー治療を行った方の写真を供覧します。
左眼の発作時の眼圧は80mmHg以上とかなり高く、受診までに半日以上激しい痛みが続いていました。このような状態でのレーザー治療は結構たいへんです(高眼圧のために角膜は濁っていますし、前処置によって縮瞳した状態にある右眼と比べると肉厚な状態で穴をあけなければなりません)。レーザーが効かない場合には緊急手術を行うことも念頭において治療を行い、何とかレーザーのみで対処することができました。
3枚目の写真はレーザーの数時間後に撮影したものですが、眼圧はほぼ正常に戻り痛みも完全に消失しておりました。ただし、高眼圧が持続していたために左眼の瞳孔は縮まなくなっておりました。これに対し、反対目の予防的治療はとても楽でした。
発作の方を見るたびに思うことですが、発作を起こしやすい方はできれば両眼とも予防的治療で済ませたいものです。
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発作を起こして治療した左眼 |
予防的治療を行った右眼 |
レーザー前の
前眼部所見 |
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レーザー前の
細隙灯所見
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レーザー後の
前眼部所見 |
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穴の位置 |
瞳孔の真上やや右側の虹彩周辺部 |
瞳孔の左上の虹彩周辺部 |
【混合型緑内障】
原発開放隅角緑内障と原発閉塞隅角緑内障が同一眼に生じたもの(つまり、隅角も狭いが、房水流出も障害されているということ)をこう呼びます。実際にはそれぞれの要素に対して必要な治療を行うということになります。
【続発緑内障】
さまざまな眼疾患によって生じる緑内障の総称です。原発緑内障と同様に、開放隅角と閉塞隅角に大別されます。眼圧を下げる治療も行いますが、原因の疾患に対する治療も重要です。