◆ 網膜中心動脈閉塞症
片目の視力がほとんどなくなります。一瞬にして症状が完成すること、視野全体が真っ暗になることが特徴です。原因は血栓(血液の塊)などが、網膜中心動脈という細い動脈をつまらせてしまうために、網膜の血流が途絶してしまうことです。したがって、心房細動などの不整脈や、動脈の閉塞・炎症を持病とする方が多いです。症状が特徴的なので、問診のみで診断することができることも多い疾患です。
網膜は神経組織ですから、すぐに血流が戻れば視力も回復しますが、およそ20分もたつと回復が非常に難しくなります。したがって、この疾患の処置は一刻を争います。電話などで問い合わせがあったら、即座につぎのような処置を指示し、来院後に95%O2+5%CO2の吸入、ウロキナーゼなどの線溶剤点滴、前房穿刺(急激に眼圧を下げるため)などの処置を行います。発症からある程度時間がたっていても、時に回復する幸運な方もいらっしゃるので、回復の見込みがあまりない場合でも、状況によっては治療を試みる価値があるように思います。
【電話で指示できる初期治療】
・眼球マッサージ
目圧迫して解除する、という行為を数秒置きに繰り返すことによって、血栓などを飛ばす。
・Paperbag rebreathing
紙袋などを口に当てて、空気を呼吸する(表現は悪いですが、シンナーを吸引する行為を連想して下さい)。これにより、吸気中の二酸化炭素濃度が上るため血管が拡張して、血流が戻りやすくなります。
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【まちがいやすいもの】
◆ 閃輝性暗点
主に脳底動脈系の血管攣縮のため、数分~20分位視野の中心が暗くなります。この疾患のポイントは、ぎざぎざした光のようなものが見えること、両眼性が多いこと、そして時間がたつと見え方が元に戻るということです。典型的には片頭痛による拍動性の頭痛を伴うといわれますが、眼科に来られる方は頭痛を伴わないケースが多いようです。よほど症状を繰り返す場合を除けば、特別な治療は行いません。
◆ 眼底出血・網膜剥離など
進行すれば視野が真っ暗になることもありますが、一瞬にして症状が完成することはまずありません。どんなに早くても数十秒から数時間はかかりますから、問診での区別は可能です。
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◆ アルカリ眼外傷
熱傷や酸による外傷に比べ、アルカリ外傷は予後が非常に悪いです。アルカリ物質は組織への深達性が強いため、時間がたつと奥の方まで高度の障害をきたし、本来透明であるべき角膜が真っ白に濁ったり、まぶたが癒着して眼が開かなくなったりします。したがって、網膜中心動脈閉塞症と同様に、一刻も早く処置をしなければなりません。この場合の緊急処置は簡単です。少しでも早く大量の水で目を洗うこと、これに尽きます。洗面器に水をはってその中で目をパチパチさせるなど、というのでは足りません。水道の蛇口に目を近づけて、流水で10~15分以上目を洗うように指示します。
その後、眼科医の診察を受けるように指示します。眼科では、大量の生理食塩水で洗眼をしてから薬物による治療を行います。
どんな化学物質で受傷したかという問診は非常に重要であり、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)や生石灰、一部のトイレ用洗剤などアルカリ物質の疑いがあればこのような処置を指示する必要があります。